かなしいかぜ 2


「おい、その個体は厳重注意だそうだ」

「データは… あった、気象観測センター配属のトルネードマン。腕に強力な動力装置が付いてるってさ。早めにバラしておかないと。暴発でもしたらたまらんからな」

「新品のようにキレイだけど、これ間違って来たんじゃないのか?」

「いや、データを見ると廃棄で間違いないぞ。ちともったいない感じはするが」

「部屋には厳重にロックしとけよ。最近スクラップ工場で廃棄ロボットの盗難が相次いでいる。犯人も見つかっていないし」


従業員達が部屋のロックをし帰っていく。
中〜大型の特殊機能がついた破棄ロボットだけが入れられている部屋。当然エネルギーは抜かれ誰一人として意識はない。

中には故障している個体もあるがそのほとんどはとても破棄には見えないロボット達。法律により故障の有無を問わず稼働年式が規定値まで達したロボットは廃棄処分となる。 トルネードマンのように特殊なロボットはその機能故に稼働年数=寿命も短い。
人間のために働くことを生きがいとして生まれ、人間のために死んでいく。
そこにロボットの心は存在してはいけない。
だが、もし
人間たちが気づいていないだけで、心が存在していたら。


自分が深い眠りについてからどれくらいたったのか。目を覚ます事は二度とないと思っていたのに、徐々に意識が蘇る。
側で誰かが自分にエネルギーを注入していた。

「あ…あなたは」

あの時の男性。ドクターワイリーだった。

「もうすぐ満タンになるからの」

「わ ワタシは もうショブンが ケッテイ して」

「まあ待て、今は大人しくワシに着いて来るのじゃ。みんな待っておるぞ」

動けるようになるとコッソリと処分場を後にし、あの時の飛行体に乗りこんだ。 自分の意思ではないにしろ、法律に逆らう事になったのだから後ろめたさもあったが、内心助かったと思っている自分もいた。

巨大な要塞に着くとそこには7体のロボット達がいた。みんな体はボロボロで自分と同じ状況からここへ運ばれてきたらしい。
見覚えがあるのが数体。

「もしかして…君たち、ライト博士の…」

「トルネードマンじゃないか!君もワイリーに助けられたのか」

どうやらここにいるのは何故か自分達の生みの親、ライト博士が製作したロボット達である事がわかった。


「みんな揃ったな。ワシはワイリー。お主達に話があってここへ連れてきた」

「話?」

「そう、お主らはみな、まだまだ仕事が出来るじゃろ。どこも故障しておらんのにスクラップ処分とは随分と惨たらしい事をするのう」

「しかし我々工業用ロボットは…法律で決まっていて」

「確かにそうじゃ。じゃがのう、それは人間のエゴじゃ。期限だからと言ってどこも問題のないお主らを処分する。人間の為に一生懸命働いてきたお主らをな」

自分もまだまだ人々の役に立ちたかった。それはここにいるみんなも同じだったようで。

「確かにあなたのいう事は正しい。もっと働きたかった」

「仲間と楽しく過ごした日々に戻りたい」

こうなると不満が漏れ出しみんな口々に内心を打ち明けた。

「そんなワガママな人間共にひと泡吹かせてやろうと思わんか?何か行動を起こさなければ、お主らのようなロボットをこれからも増やす事になる」

「…分かりました。私達を修理してください」

それがワイリーの計画だとは知らなかった。その時はただ、素直にいう事を聞いてしまった。
彼の考えが正しいと思ってしまったから…。


「トルネードマン、あの時はすまんかったのう。お主の能力を高く買っていたからな、試すような事をしてしまって」

今まで世界を恐怖に何度も貶めたワイリーとは思えないような態度に気を許してしまった。
彼は素晴らしく腕の立つ博士で、修理の早さには驚いた。それどころか改良を加えられ、新たな力がみなぎってくる。

「お主の…これ、トルネード発生装置。ライトも恐ろしいモノを作りおる。 じゃがワシならもっと良い作りに出来るぞい。…しかし思ったより劣化が激しいのう」

「能力の割に装置の小型化をはかっている為負担が大きいんです。だからここだけじゃくて、ボディ全体もメンテナンスをマメに行わないと」

ふむふむと話を聞きながら自分を調べているワイリー。

「これは…そうか、これがお主に余計な負担をかけておったのか」

「なんですか?」

「トルネード発生装置の制御部分じゃよ。構造上、本来の威力の6割程度しか出力されておらんようじゃ。 残りの4割は制御装置が働いておる為に、行き場を無くしたエネルギーが自身に返り、己の損傷を早めてしまっておる という事じゃな」

「知りませんでしたそんな事」

「じゃろうな、ライトの事だから都合の悪いところは黙っておったのじゃろう。まあここもワシが修理し直すから大丈夫じゃよ。 100%で出力出来るようになればトルネードの威力も増すばかりか、自身への負担も減るぞい。 その分、出力時の衝撃が増えるじゃろうが…この部分への制御追加と強化で耐えられるじゃろう。ここにはライトが持っておらん丈夫で軽い素材もあるからのう」





こうして俺は生まれ変わった。
驚くほど能力が上昇し、力がみなぎってくる。

「気分はどうじゃ?」

「とてもいい。自分じゃないみたいです」

「だいぶ改良を加えたからのう。外で試し打ちしてみるといい」


右手を構えエネルギーの装填を開始する。チャージのスピードが格段に上がっているのがわかる。あちこちに付けられたエアー入出口のおかげであっと言う間に風の渦は巨大化していく。 自身への衝撃の反動が不安であったが、思い切って空めがけて放つ。目の前に巨大なトルネードが発生し、自身が唖然としてしまった。

「素晴らしい!!どうじゃトルネードマン、これが"トルネードブロー"じゃ!」

自身は力を手にし、溺れてしまっていた。自分が如何に優秀で出来るロボットであると誇示したい気持ちになっていった。
それがワイリーよる洗脳だとも知らず…

「まだまだ働けるロボットを、本人の意思を無視して処分しようとする人々…いや、世界に思い知らせてやるのじゃ!!」


そこからはみんなそれぞれに別れ無差別攻撃を行った。自身は広範囲を制圧できる力であっという間に気象観測センターを乗っ取った。

通信が入る。

「あなたは…」

そう、最高責任者の人間だった。

「どうしたんだトルネードマン!君はこんな事をするロボットじゃなかったはずた!それに君は処分が決定して数ヶ月前に…」

「…そうですね。あなたは法律だからと言って私の気持ちを理解しないまま処分場へ送った。 あなたは綺麗事を並べただけで、私の事などなんとも思っていなかった。私は納得いかなかったから戻ってきただけですよ、」

「仕事をしに ね」


「トルネードマン目を覚ましてくれ!私が悪かった!しかし法律を破れば私達が…」

「結局は自分達の保身の事しか考えていないじゃないか!?何が目を覚ませだ。 その言葉そっくりそのままお返ししますよ。次に余計な事を言ったら…あなた達のいる本部センターを破壊します」

通信を遮断し、舌打ちをする。
やはりワイリーの言うとおりだ。人間はなんて身勝手なのだ。

…信じていたのに


その後、ワイリーがライト博士を貶める為に我々を利用した事が分かったが、そんな事はどうでも良かった。
今はただ、憎たらしい人間達に仕返しをしたい気持ちしかなかったから。


3へ続く


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最終更新日 2015年5月17日
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