風は蒼き光と共に 3


「ハルピュイア、本気でやらないとケガだけじゃ済まなくなるよ!」


トレーニングルーム
エックスが相手となりハルピュイアは戦闘訓練を行っていた。
十の光る武具を預かり、身構えはするものの扱いがわからないまま。エックスの攻撃を避けるのに精一杯で全く集中出来ない。


訓練で避けることが出来ていた弾などなんて鈍い事か。エックスのバスターは目視するのがやっとである。
ハルピュイアの能力であれば回避した上でそのまま相手の真後ろまで回り込む事が出来るのだか、まだ慣れていないのだろう。行動がぎこちない。

相手がエックスだという事も彼に多大なプレッシャーを与えていた。

「ダブルチャージバスター!!」

今までのとは比べものにならないほど強力なエネルギー弾が迫る。
ギリギリでかわしたハルピュイアだったが2発目の回避には完全に間に合わなかった。その威力で吹き飛ばされ壁に打ち付けられると、その場に崩れる。

「ハルピュイア様!!」

「エックス様の事だ、大丈夫だとは思うが…」

「ハルピュイア様はエックス様に攻撃するのを躊躇っているのでは」

研究者達はハラハラしながら2人を見守る事しか出来ない。


「っく…」


なんとか起き上がり、エックスを見る。

エックスは…複雑な表情でこちらを見ている。

「ごめんね、ハルピュイア」

「エックス様…?」

「まだ戦闘に慣れてない君に無理強いをして…これは僕自身の焦りなんだ」


野放しのイレギュラーをいつまでも放っておけないが、自分は戦う事から逃げた。
そして戦う事をハルピュイア達に押し付けようとしている。
身勝手な事だと分かってはいるが、早く彼らに一人前になって欲しい…

自分が身を引いた事で、戦力が大幅に落ちている事。そして結果的に自分だけが安全なポジションにいる事。そこから大切な仲間達を危険な戦いに向かうよう指示する辛さ…



ハルピュイアはそんなエックスの気持ちを全て分かっていた。

自分が起動し始めて一ヶ月。
付きっきりで自分の相手をしてくれているエックス様。
そして話して分かった。
エックス様は深い心の闇に囚われている事に。
その優しい性格故に割り切る事が出来ず、「自分は逃げている」と仰る。


そうではないのですエックス様。


「あなた様はこの世界のため…もう充分に戦われました」


脚に力を込め、立ち上がるハルピュイア。
全身から放たれる覇気に周囲が圧倒する。

「エックス様は逃げている訳ではない。皆を救う方法が…変わっただけです」

ふらつきながらもゆっくりと歩き出す。

「武力だけが全てではないと 仰ったのはエックス様ではないですか…」

手に持ったセイバーの柄を握りしめる。

「あなた様は皆を導く光。その光を覆いつくそうとする暗雲を」


「風となりて払うのが我が定め!!」

その瞬間、風が吹き荒れたと同時にハルピュイアが消えた。




ハルピュイアはエックスの間合いに完全に入り込みセイバーを首元に向けていた。


「な…何が起こったんだ?」
データを計測していた研究者達も呆気にとられていた。

「何という凄まじいポテンシャルだ。それに…」

そう、ダブルセイバーからは淡い紅の光が放たれ刃の形状となっている。

「さすが…英雄のデータを受け継いだ者だ。こんなに早くあの武器を扱えるようになるなんて」


ハルピュイアはゆっくり、セイバーを離し一歩引いて跪くと深々と頭を下げた。

「エックス様に刃を向けた無礼をお許し下さい。そして、お手合わせしていただいた事、感謝致します」

「ハルピュイア…」

エックスはその場にしゃがみ、ハルピュイアを抱きしめた。

「ありがとう」


突然のことに困惑したが、セイバーを置くとそっと抱きしめ返した。
この時ハルピュイアは誓った。このお方を命懸けで守ると。
もう二度と辛い思いはさせないと。

この時、人間で言う恋心というものに近い感情が芽生え始めたのには本人達はまだ気付いていなかった。
ただ、よりいっそう互いの絆が深まった事は確かで、2人は満ち足りた気分であった。


4に続く


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最終更新日 2015年2月25日
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