風は蒼き光と共に 4
エックスはハルピュイアなら信頼のおける、自身の新たなパートナーになり得るのではと考え始めていた。
ハルピュイアならきっと自分の事を理解してくれる。
そして、共に歩んでくれる…と。
そこからのハルピュイアの成長振りには目を見張るものがあった。
どんどんスキルアップしていき、各種オービットをも使いこなしていった。この頃には実戦も余裕でこなし、イレギュラー掃討隊を率いて勤務に勤しんでいた。
ハルピュイアが加わった事で戦力は一気に上昇。イレギュラー検挙率は跳ね上がり、ネオ・アルカディア周辺は落ち着きを取り戻した。
四天王の残り3人も誕生し、彼らに従属するレプリロイドの開発も進み、ネオ・アルカディアの拡張工事も始まった。
国がどんどん形を成していく。
ハルピュイアはこの国第二位の権力者としての風格を持ち合わせ、またその知能により国を良くする為の政策を打診し、ネオ・アルカディアは徐々に潤っていった。
後に将軍の称号を与えられ、周囲からは「賢将」と呼ばれるようになり、ハルピュイアは皆から慕われていった。
この頃には以前話があった人間の生存圏の拡張の仕事も始まり、外へ出る事が多くなっていた。
ネオ・アルカディア中央にあるシンボルタワー。
そこに設けられている広大な庭園には生身の完全な状態の木が少し残っている。戦争平定後、奇跡的に残っていた樹木を移植したのだ。
その中でも一際立派だったこの大木を平和の象徴として、庭園の中央に配置している。
木は順調に育ち今日も青々と茂っている。
今日もエックスはその木の側に佇んでいる。
ふと風が吹き抜ける。
帰ってきたんだ、彼が。
振り返るとそこには、ハルピュイアが跪き頭を下げている。
「エックス様、今日も無事に任務完了いたしました」
そう言って顔をあげるハルピュイア。
「お帰り、ご苦労だったね。ゆっくり休んで」
精一杯の笑顔で出迎えるエックス。
その顔を見るのがハルピュイアの大事な日課となっていた。
「いいえ、そうはいきません。エリアXに向かいましょう。執務が残っております」
「少しは休むように言っただろハルピュイア。その後で構わないから。君たちのおかげでこの国はどんどん成長していってる。国周辺の環境もだいぶ良くなった。僕は先に向かっているから、メンテナンスを受けたら来てくれ」
その場を後にしたエックスを見届けると、ハルピュイアはメンテナンスルームへ向かった。エックスは心配性で、ちゃんとメンテナンスを受けたかどうかチェックするためごまかせない。
でもその気遣いが嬉しくて顔が綻ぶハルピュイアだった。
エリアXに戻ったエックス。
「ファントム」
呼びかけと同時に姿を表わす隠将ファントム。
「如何なされました」
「これからハルピュイアと大事な話がある。2人きりで話がしたい。何かあったら知らせに来てくれないか」
「御意」
しばらくするとハルピュイアがエリアXやってきた。
「ハルピュイア、今日は大事な話がある」
「はい」
「君が生まれてから早いもので今日で一年が経った。君と出会えて本当に良かったと思っている。それで、僕、考えたんだけど…」
「君を今日から正式な僕のパートナーとして改めて迎え入れようと思う」
「え エックス様…?今 なんと」
思いがけないエックスの言葉にハルピュイアは取り乱す。
エックスは微笑むと、昔話を始めた。
それはまだエックスがイレギュラーハンターとして勤務していた頃の話。
「僕には親友と呼べる大事なパートナーがいたんだ。とても強くて、勇敢で…自分の事など顧みず闘いに挑む奴だったよ。 思い悩んでしまって行動できない僕をいつもサポートしてくれて…彼がいなければ僕はここまで成長出来なかったと思う」
「今、そのパートナーはどこへ…?」
「彼は 今は居ない…とある研究所にて眠りについている。正確には封印されているんだ。詳しいことは今は話せないけど、いずれ皆にも話さなければならない日が来るだろう」
エックスは尚も続ける。
「僕は必死で封印を止めたんだ。けれど彼は言うことを聞いてくれなかった。彼が眠りについた後、僕はどうしようもなくなって…でも戦わなくちゃいけなくて…一人で…ずっと。 僕は一人じゃとても弱い、何も出来ない。そう気づくのに時間はかからなかったよ。そして改めてパートナーの大切さを知った。でも誰でもいいって訳じゃない。諦めてたんだけど…やっと見つけたんだ」
「それが君だよ ハルピュイア」
「僕はこの一年、君と過ごして分かったんだ。君なら、僕の事を理解してくれるんじゃないかって…それに」
一瞬言葉を詰まらせ頬を少し染めるエックス。
「君の事は…その、人間で言う愛すると言う感情に似ているんだ。好きとか嫌いとかそんな単純なものじゃない。彼の事は大事に思っている。けど、それとはまた別なんだ」
「エックス様…」
「だから…今日は君と2人きりで話がしたかった。なんだか恥ずかしいな」
そう言って照れるエックスにハルピュイアはドキリとする。
何なんだろうこの気持ち。今までに感じたことのない感情だ。
これがエックス様の言う愛するというものなのだろうか?
もしそうであれば俺は、エックス様の事を…
「ハルピュイア」
「はい、エックス様」
「今日から正式な僕のパートナーとして共に道を歩んでくれるかい?」
ハルピュイアの心は既に決まっている。
「勿論です。あなた様をもう一人にはさせません」
「約束だからね」
そう言うとエックスは静かに歩み寄ると、ハルピュイアを優しく包んでくれた。
驚きのあまり声も出ない。
ハルピュイアは恐る恐る腕を伸ばした。
こんな事はあってはならないと
分かっていながら
俺はエックス様を欲して
そっと抱きしめ返す
「エックス様…」
「少し…このままでいさせて」
「お辛かったでしょう…俺に出来る事ならなんでもご命令下さい。きっとエックス様のご期待に応えてみせます」
「なら…今はこうして 僕を抱きしめて」
「喜んで」
彼との決別。そして新たなパートナーと出会えた喜び。
相反する感情が入り混じり自然とこぼれ落ちる涙。
思わず顔を背けるハルピュイア。
彼もまた、複雑な気持ちでいた。
エックス様が大切にしている封印されしパートナーの存在。
そして
愛と言う感情。
こんな変な気持ちになるのは、自分がまだ"愛"という感情を理解できていないからなのか?
いや…
ハルピュイアは他に新たな感情が芽生え始めた事に気づいていなかった。
5に続く
TOP >> ロックマン >> 風は蒼き光と共に 4
最終更新日 2015年2月25日
SLOPPY GRAPHICA RIKU SAKUMA/REQ code:Anode
SLOPPY GRAPHICA RIKU SAKUMA/REQ code:Anode