Wicked Life 3
本気で死を覚悟したが、少しでも生き延びれば自由になる術は見つかるかもしれない。落ち着きを取り戻したコピーエックスは廊下を歩きながら考えていた。
「どこ…行くの」
「黙れ」
最深部に近づくにつれてハルピュイアがピリピリしていくのがわかる。
この先に何があると言うのだろうか。
急に開けた場所に出るとそこには巨大な装置が存在し、その装置の中心には
「だ… 誰か いるよ?」
もしかしてあれは
「ひっ… !!」
そのなんとも言えない存在感に圧倒され全身が震える。
「うろたえるな。あのお方こそがエックス様…この、ネオ・アルカディアをお創りになられた伝説の蒼き英雄だ」
そう、巨大な装置に一体化したその人物こそ この国を創ったオリジナルエックスであった。ホログラム映像で見たあの穏やかで優しそうな雰囲気はどこへいったのか、恐怖すら覚える。
「あれがオリジナル!?どうして助けないの!!?」
「落ち着け!エックス様は自ら望んでこうなったのだ」
まるで自分に言い聞かせるように…
「見ろ」
エックスのボディに触れようとした瞬間、バチッと指を弾かれる。
「俺ですら触れることは許されない」
何度触れようとして拒絶されたのか。もう慣れた様子で説明を続ける。
「強力なバリアが貼ってある。俺は平気だが、他の者が触れると感電死するぞ」
一呼吸置くとハルピュイアの口から意外な言葉が漏れる。
「俺はただ…エックス様と共に平和な時を過ごしていきたいだけなんだ」
オリジナルエックスの話を始めたハルピュイアだがその表情はどこか寂しげで…ここはハルピュイアにとって神聖な場所。そこへ連れてきた理由を語りだした。
伝説の蒼き英雄エックスによって作られた人とレプリロイドが手を取り合って暮らす理想郷、ネオ・アルカディア。
周囲のイレギュラーはほぼ鎮圧され、ようやく訪れた平和な生活はエックスが自身を犠牲にする事で守られたと同時に本人の幸せを消し去ってしまった。
そしてハルピュイアの幸せをも…
高望みはしない。ただ、あの日常が
人間とレプリロイドの在り方について話をしてくれたエックス様
これからのネオ・アルカディアについて夢を語られていたエックス様
庭園の大樹の側でいつも笑顔で待っていてくれたエックス様
側にいるだけで、幸せだったあの日常が
一瞬で終りを迎え…
「この国はまだ発展途上…君主がいなければ成り立たぬ不安定な状態なのだ。エックス様は自分の身を犠牲にして我々を守ってくださっている。 今こうしていられるのもエックス様のおかげ…だからこそ早く この状態から開放して差し上げたいんだ」
さっきまで自分を道具扱いしていたコイツ。
従わなければ殺すとまで言ったコイツ。
なのになんで自分は今、こんな複雑な気持ちになっている?
ほら…エックスの話をする時、とても優しく穏やかになるんだ。
それまでとは比べ物にならないほど弱く、寂しい顔をする。
エックスがどんなヒトだったのか、自分はわからない
…いや、本物のコピーである自分は
同じような振る舞いで同じような事をし、同じような言葉をこの子にかけてやらねばならないのだろう。
自分は自分ではない…エックスなのだ。
弱るハルピュイアを見ていたたまれない気持ちになるのもそのせいなのだ。
…そう言い聞かせた。
自我を持ってはいけない。エックスとして考え行動するのだ。
だから この子にも、エックスとして接してあげなくては この子は死んでしまう
「…ハルピュイア もう 大丈夫だよ」
彼の震える拳に恐る恐る手を添え、精一杯の笑顔を見せてみた。
「ボクは今ここに 復活したんだ これからまた 2人でこの国を治めていこう」
賭けだった。
これでハルピュイアが納得するのか。
自分の事を受け入れてくれるのか。
思いの外、ハルピュイアの心の傷は深かったようだ。
みるみるうちに表情が変わり、コピーエックスの方を向き直ると膝をついた。
「エックス様…」
コピーエックスの手を握り締め項垂れるハルピュイア。
このヒトは…エックスの事本当の意味で好きなんだなって この時思ったんだ。
ううん、好きなんてレベルじゃないのかもしれない…
ボクはまだ感情と言うものが理解できていない。
だから正直、コイツの気持ちなんてわからない。
だけどモヤモヤは晴れない。
自分として生まれたのに自分じゃない。
生まれる前から道は決められている。
自分は求められているはずなのにそれは自分じゃない。
考えれば考えるほどアタマがおかしくなりそうだ。
色々と考えを巡らせていると、ふと響く微かな声。
(ハルピュイアのこと 嫌いに ならないで)
だが声の主は見当たらない。
「誰…?誰なの?」
問いかけても返事が返ってくることはなかった。
「先ほどまでの無礼は侘びよう…しかし、甘やかすことはしない。この計画、失敗は許されないのだ」
ハルピュイア自身も、まだコピーのエックスという存在に上手く対応出来ないのだろう。先程の弱い彼はどこへ身を潜めたのか。また高圧な態度に戻ってしまった。
だが、少しはオリジナルのそれに近い何かを感じることが出来たのだろう。
「わかったよ。どうせ断ったところでスクラップにするんだろ?」
「では エリアXに移動しよう。エックス様の自室に案内する」
ようやく打ち解けてきた2人。しかしこの計画は始まったばかり。
上手くやっていけるのだろうか?
4へ続く
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最終更新日 2015年2月25日
SLOPPY GRAPHICA RIKU SAKUMA/REQ code:Anode
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