Wicked Life 4
「愛」
最初はただのコピーだと蔑んだ態度で見下していたハルピュイアだが、オリジナルがいなくなった今、その存在を感じられるのはコピーエックスしかいない。
だが、ハルピュイアが製作の指示を出したとは言え、いざ目の前に存在すると複雑な気持ちになる。
自分も断言したではないか。
"所詮はコピー エックス様の代わりが出来ればそれでいい"
だが…
「それ以上を…望んでは ダメだ」
アレはコピー体であると言い聞かせる。
自分が愛しているエックス様ではない。
接していくに連れて募る想い。
それはコピーエックスも同じだった。
落ち着きを取り戻し、迎える平凡な日常というもの。一国の主ともなるとやる事が多く、のんびりしている暇はない。それに加えて"エックスとして振る舞う"という仕事もある。
今はハルピュイアとファントムが上手くサポートしてくれているが…やはり見ず知らずの他人と同じように考え行動するという事は至難である。
エックスが掏り替わっている事を知っているのは製作者と四天王とごく一部の幹部のみ。立場上直接会う人物が少ないことも災いしてか現在のところ特に気づかれた様子もない。
問題は…ハルピュイアのエックスに対する気持ち。それがふとした時に自分に向けられていると気づくと対応に困ってしまう。
「違う… アイツが求めているのはオリジナル… ボクじゃない」
過ぎゆく日常。
嫌でも深まる仲。ハルピュイアも次第に柔和な対応になってきた。
それはボクがエックスとして上手く振舞えている証拠だろう。
だがまだ一つ。理解できない物がある。
青空が広がる気持ちのいい午後。
庭園にてくつろいでいた時の事である。
「あらエックス様、ハルピュイア様!」
「フォクスターとイナラビッタか。どうかしたのか」
「今日は仕事が片付いたからのーんびり日向ぼっこにきたんですよ。相変わらずで羨ましいなぁお二人様はー」
「これ、イナラビッタ。はしたないですよ」
なんの事だろう?
きょとんとしているとハルピュイアがフォローに入る。
「やめてくれ、さすがに照れる」
あのハルピュイアが微笑んだ。
「そうですよ、イナラビッタ。私たちはあちらでお茶にしましょう。シルトが特別な一品を振舞ってくれるそうよ。ハルピュイア様達はいかがですか?ご用意させましょうか?」
「すまないが今は結構だ。こうして静かに風を感じていたい…エックス様と2人で」
2人を見送ると、また黙って側に立っている。
なんだろう。こっちまで照れてしまう。
自室へと戻るとコピーエックスは思い切って聞いてみた。
「オリジナルとどんな関係だったの?」
「何だと」
ギロリと睨まれ竦んでしまうが、気になって仕方ない。
それにあの時―
「いや…その みんなボク達の事話すから、行動に気をつけなきゃいけないのかなと思って」
「お前はそんな事気にするな」
やはり言うわけないか。
でも気になる。その愛という感情。
レプリロイド、いや自分達を含む全ての人工物にそんな感情がやどるものなのか。好きとか嫌いとか、その辺の言葉じゃ言い表せない何か。
「教えてくれないならファントムに聞く」
「よせ!」
止めた瞬間 目の前には隠将の姿がすでにあった。
「ファントム!いちいち来なくていい!」
「如何なる用とて主に呼ばれれば駆けつけるのが我が務め」
ファントムだけはちゃんと対応してくれる為、唯一安心できる存在だった。彼の心中も正直わからないが他の3人と比べれば悪意は全く感じられない。
そうだ、ファントムは好き嫌いで言えば好きだ。だが、ハルピュイアのエックスに対するそれとは違う。
「ねぇ、オリジナルとハルピュイアってどんな関係だったの?」
「我ら他の四天王同様、主とその配下…に御座います」
「それだけ?」
「と申されますと?」
「ファントム…」
ハルピュイアがおもいっきりファントムを睨みつけている。
ファントムはため息をつくと、少々呆れ顔で、
「お聞きにならぬ方が御身の為かと」
とコピーエックスを見つめた。
「…分かった。じゃあその事に関して何か起きた場合は2人で対処してね」
「ハルピュイア」
「なんだ?」
「気をつけろ」
「……」
ハルピュイアの次にエックスの側に居ることが多かったファントム。彼は当然ながら2人が深い間柄であることを知っていたし、それなりにサポートしてきていた。
だからこそ、コピーエックスの製作を最後まで反対していた。
ハルピュイアのエックスに対する想い それは
狂気に近いものだった。
あの時の記憶が駆け巡る。
エックス様が自身を封印した時の 戦慄。
だからコピーを造る事は彼にとってマイナスにしか働かないと。
「あの御方は エックス様ではない」
「解っている」
「ならば、何故あのような問が?」
「…今更、何を言おうが無駄である事は承知している。拙者はあの御方を主(あるじ)として仕えるのみ。それでこの国が救われるのならば…それが真(まこと)の主の望みゆえ。お主はそこが抜けている」
「そんな事はない!誰よりもこの国を…エックス様をお慕いしているのは俺だ!!エックス様と2人で今のネオ・アルカディアの基礎を創ってきた!」
「だから何だ?今のお主にそんな事を言う資格はない。そう、国のためではなく自身の為にエックス様の身代わりを造らせたお主にな」
「黙れ!!」
「エックス様とお主の関係を批難する気はない。だが彼奴を巻き込むな」
「黙れと言っているだろう!?」
ふぅと溜息を付くとファントムは口ごもる。今のハルピュイアに何を言っても無駄だと悟ったようだ。
この国を潰す気か
耳元で囁くと、ファントムは闇に紛れ消えた。
5へ続く
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最終更新日 2015年2月25日
SLOPPY GRAPHICA RIKU SAKUMA/REQ code:Anode
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