Wicked Life 5


「く… くそ…っ」
よろめき壁にぶつかるとそのままズルズルと崩れ落ちる。

「どうすれば良かったんだ!!?ああ!?俺はこの国を守りたい!!エックス様がお創りになられたこの国を!!!だからこそアイツを造ったんだ!!俺は この国を   うぅっ… 何が正解なんだ  俺は 俺は…っ!!!」

床に両手を叩きつけ発狂するハルピュイア。

「俺は 間違っていない!!
…間違っていない間違っていない間違っていない間違ってい



運の悪いことにコピーエックスが部屋を訪れる。

「!?」

愛と言う感情に狂わされた イレギュラーそのものだった。
目は焦点が定まらず自身の拳が変形するほど床を殴り、ひたすら自分は悪くないと自己弁護をしている。

「は…ハルピュイア?どうし…」


「……エックスさま?」

こちらをゆっくりと見上げるとニタリと顔を歪ませる。

「エックス様 どうか なされました か ?」

身の危険を感じたコピーエックスだったが、あまりの恐怖に動く事ができない。ゆっくりと近づいてきたハルピュイアはそのままコピーエックスに抱きつくと床に押し倒した。

「ひっ…  ハルピュイア 待って どうしたの?」

「エックス様 やっとお戻りに なられたのですね」

両腕を押さえつけられ抵抗ができない。
胸部に顔を埋められゾクリとする。

「ぃやっ…」

「エックスさまは 敏感ですね そんなに顔を 赤らめて」

普通の仲ではない事は嫌でも分かった。だがコピーエックスにとってハルピュイアは嫌悪の対象でしかない。時折見せる優しさに揺らいだこともあったが、あれは姿を重ねて見ていた…オリジナルへ向けてのもの。
あの時だって優しい振りをして首を締めたのだ。このままでは何をされるか…

「ハルピュイア、こんな事をしてダメじゃないか…それに痛いよ、離してくれ」

呼吸を整え、エックスのフリをする。恐怖で強張る表情をなんとか微笑ませ優しく丁寧に語りかける。

「こんな場所でこんな事をして、いつもの君らしくないよ?」

ハルピュイアはこちらを見つめたまま動こうとしない。言葉も発さずただひたすらコピーエックスを見つめている。

ここで怯んではダメだ。

「国家予算の話… まだ終わっていないだろう?資料の提出を… エネルギー配給制度の見直し」


「エックスさま   じゃない」


「っ!?」

「貴様あぁぁ!! コピーのくせに!!!」


「ファントム助けて!!」

反応がない。
そうだ、先程彼は仕事で出かけてしまった事を忘れていた。

「あ… あっ」

ハルピュイアの表情がみるみるうちに変わっていく。
どうすればいいんだ。

その時だ。
舞い降りた小さな光が間に入ってきたかと思うと閃光弾のような光を放つ。

「うっ!!」



目を開けるとハルピュイアが倒れていた。
その小さな光はハルピュイアの頭上にとどまっている。

「な…なにこの光… サイバーエルフ?」

温かみのある優しい光。
しばらくすると飛び去ってしまった。

以前感じた事のある気配にハッとする。今の光はもしや

「あの時の 声の主…!?」



ハルピュイアは気を失ったままだ。
声をかけても揺さぶっても反応がない。

「これが… 愛なの?」

「こんなに 辛くて 苦しくて  悲しいものなの?」

「ねぇ 誰か 教えてよ」

「ねぇ…」





そのままどれだけ時間が経ったのだろう。気を失ってしまっていたらしく起きると自室のベッドに寝かされていた。側にはハルピュイアではなくファントムがいる。

「あ…れ ハルピュイアは?」

「お目覚めですか。彼はメンテナンスルームに居ります故、心配なさらず」

「そう…」


暫く沈黙が続いたがファントムが口を開く。

「…彼奴とエックス様の事ですね」

「うん、教えて」


ハルピュイアとオリジナルエックス。
この2人の絆は誰にも断ち切れぬ深いもの。
お互い大事に想っていることに間違いはないが、ハルピュイアがエックスを思うあまりに暴走しがちなこと。そしてエックスが自身を封印し、この世に居なくなってしまったことでそれに拍車がかかったこと。
国の為と言ってはいるが、自分の為にコピーエックスを造らせたこと。

「真に愚か。エックス様にこの国を託された身でありながら自身の欲求を満たす為に行動するなど…拙者も二人の間柄を知らない訳ではない。しかし…」

「ファントムはさ…知ってる?ハルピュイアがオリジナルの話する時、とても幸せそうで悲しい顔するんだ。普段の彼からは想像できない程に。でもさ、可哀想だとは思うけど…」


「ボクは愛なんて信用出来ない。おぞましいものでしか無い。恐怖でしか無い。だから…彼の事、理解してやれそうにない。愛なんて感情…要らない」


自身の心に深く根付いた不信感。
オリジナルとハルピュイアの美談なんてもう二度と聞きたくない。

この日を堺にコピーエックスの感情も更に不安定になっていった。


6へ続く


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最終更新日 2015年2月25日
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