Wicked Life 6


「ボクにそんな能力が…?」

「ボディの強化をはかる意味でもオリジナルより耐久性の高い素材でできています。胸部中央にあるコアにデータが格納してあります」

コピーエックスと対面していたのは 生みの親である少女、シエルであった。
どうも自身には戦闘用の装備やデータが格納されているらしい。
確かに気にはなっていた胸部の赤いコア。

「何故…平和の象徴とされるエックスのコピーであるボクにそんな能力を?」

「…有事の際に との事です」

側にいる大人たちの視線を気にしつつおどおど話す彼女。
余計な事を言わぬよう釘を刺されているのだろう。
側にいる研究者の一人が前に出る。

「我々を含む国民全員が、エックス様によって守られているのです。エックス様がいらっしゃるからこそ安心して過ごしてゆける。まぁ…平和の象徴としての一種のパフォーマンスでもあるのです」

「戦っていた頃の勇姿 か… わかった。移動しよう。 ハルピュイア」

「はっ」

ハルピュイアに何があったのかは分からないが、あの出来事以来自分に素直に従うようになった。おとなしすぎて逆に気味が悪いくらいなのだが、これでいいのかもしれない。



一番広い戦闘訓練用ホールへやってくると、シエルを含む製作に関わった研究者達が説明を始める。

「シエル」

「はい」

基本設計は彼女が行った為、重要な事はシエルにしかわからないように設定してあるらしい。促され側に寄ってきた彼女に服を開きコアを見せる。特殊な機器を使い、コアを開けるとケーブルを繋ぎ、何やら入力を始める。

「それでは… 戦闘用プログラムを発動させるためのコードを入力 ロックを解除します」

感じたことのないデータが流れてくる…
次々とインプットされていく未知のデータ。


そう、この時から 変わってしまったんだ。
自分自身を制御できなくなる程、力に溺れていったんだ…


「最終ロック  解除…しました」

その時のシエルの顔は、そう
自分が生まれて初めて彼女を見た時の 寂しげな表情であった


チカラを集中させると胸部のコアが強い光を放ち始めた。
光に包まれ各パーツがフォームチェンジしていく―


「お気に召して頂けましたか?これがアルティメットアーマー その名に恥じぬ超高性能戦闘用アーマーです」

変身した姿は、ネオ・アルカディアに舞い降りた天使。
白とゴールドに包まれた美しいフォルムに一番酔いしれたのは自分であった。



「エックス様、基本的な戦闘データは先程のロック解除と共にインプットされていると思います。私たちはモニタリングルームへ移動しますので…」

「ああ…」

研究者達が移動を終えると、擬似バトルフィールドに切り替わる。

「まずはバスター…」

「背中の小型飛行ユニットによる飛行、及び高速移動」

「フォームチェンジ」


すごい 凄いじゃないか!
ボクにこんな力があったなんて!!

次々と繰り出される能力に驚きと興奮を隠せない

「エックス様、気になる点はございませんか?こちらのモニタリングでは特に異常は無さそうですが」

「問題ない」

「それではフェイズ2へ移行しましょう。エックス様のお力はまだまだこんな物ではありません!真の力を解放致しましょう」

「!? あのっ それはまだ」

「どうしたシエル?何か言ったか?」

大人に睨まれ口ごもるシエル。

「いえ…」



「真の力…?」

「ええ、"シャイニングトランスフォーム"プログラム。若干の注意点はありますが、更なる戦闘力増強を図ることができます。今の状態から更にプログラムを展開してください」

フィールドの隅でコピーエックスの様子を見ていたハルピュイアに研究者の一人が声をかける。

「ハルピュイア様、そこからお下がりください。危険です」

「危険?お前たち一体何を…」

「何を と申されましても。ご命令通り戦闘用プログラムを組み込んだだけです」



自身の中に眠っていたプログラムを呼び起こす。

「はぁぁあああっ!!」

時空が歪むようなパワー、溢れ出る白い光。
自分が自分で無くなってしまうような。なんて気持ちの良い

思わず笑みが溢れる。

みるみるうちに巨大化していくコピーエックス。
巨大な翼を持ち、大天使のような光の輪をたずさえている。

「シャイニングトランスフォーム 無事起動。各数値に異常なし」

「エックス様、いかがですか?」


「…最高だ。とても気分が良い」


「機動力は若干落ちますが、アタックバリエーションは増え、専用の攻撃用オービットも御座います。ただし莫大なエネルギーを消費しますので、 実戦の場合は専用のバトルフィールドにてプログラムを展開するようにしてください。そこに各種オービットの配置、エネルギー補充装置を設置しておりますので」

「わかった。ダミーを配置してくれ」

強い。なんて破壊力なんだ。ダミーなんて一瞬で吹き飛んでしまう。
長い苦痛を与えることも、焼きつくす事も、光線で貫くことも
何もかも思いのままに出来てしまう。

この世で唯一の力を持ったんだ。
もうハルピュイアに怯えることもないんだ。

「ふっ… くくく っははははは!!!」

愉快で愉快で笑いが止まらない。
ダミーを次々と破壊し、気分は更に高まっていく。

「ダミーの行動レベルをMAXにあげろ。相手にならない」

「はい、お待ちくださ」

操作しようとする研究者の腕を掴むハルピュイア。

「貴様ら…っ!」

「どうなされました、ハルピュイア様」

「こんなプログラム聞いていないぞ… 誰だ?素直に名乗り出ろ」


静まり返る室内。奥からボソリと声が上がる。

「…エックス様にもしもの事があった場合、困りますよね」

「ふざけるな!そのために警察機構や我々四天王が居るんだぞ!?」

「ふざけてなどおりません。有事の際にハルピュイア様達が…

「エックス様を守って下さるのか心配なのですよ」

「!!」

研究者達は人間であることを盾に更に続ける。

「我々から見て、ハルピュイア様達四天王とエックス様には信頼関係と言うものが無いように感じられましたので。そう… 計画の段階で既に、ですよ」

「な  何を 言って」


「案の定 主従関係は成り立っていないようですし」

「我々を守ってくださるエックス様が あのような仕打ちを受けるのは見ていられませんので」

「やめろ…」

「ハルピュイア様はエックス様の事を何よりも大事になさっていたのでは?」

「やめろ!!!それ以上言うな!!黙れ!!」



「ハルピュイア…」

振り返るとコピーエックスがこちらを睨みつけている。

「ジャマをするな。下がっていろ」


「エックス様…」

当然、今の会話はホール全体に響きわたっている。

「図星で反論できないな? もういい。自分の任務に戻れ」

「……はい」


オリジナルが人間を大事にしていた理由はこれだったのか。
同じレプリロイド同士の方が分かり合えるものと思っていたが、製作者である人間の方がよく理解し、対応してくれる―


自分が、マッドサイエンティスト達の玩具にされているとも知らず…

つくづく自分は世間知らずだった。
生まれた時からネオ・アルカディアという籠の中。
こんな閉鎖的空間でエックスという一体のレプリロイドに縋る事でしか生きていけない人々にまともな奴なんていなかったんだ。

研究者達は禁断の「蒼き英雄エックス」のDNAデータを手に入れた事で狂ってしまった。それを元に生まれたコピーエックスは調度良い実験体に過ぎなかった。
守るべき対象の人間達にすら弄ばれるコピーエックス。
だが…


もうそんな事はどうでも良かった。
自分の意見に素直に従う味方が出来た。それだけで充分だった。


7へ続く


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最終更新日 2015年2月25日
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