envious 1


体の中を警報が駆け巡っているがもはや熱さなど麻痺している。

「エックス様…エックスさま…」

完全に機能停止してしまったコピーエックスの頭部に何度も何度も問いかける。
エックス様を残してなど行けぬ。
自分の意識もどんどん遠のいていくのが分かる。

いっそこのまま
一緒に炎に身を委ねようか。


「火の手が大きくなってきた!しょうがないわねっ!!」

レヴィアタンは愛槍フロストジャベリンを振りかざすと辺り一面に冷気を放つ。炎の進行を遅らせる為にまだ火の気がないところを凍結させた。

「このままじゃ隣接する建物も危ない!消火急いで!!」

部屋は爆発で激しく損壊している為消火装置も満足に働かない。レヴィアタンは細やかに指示を出していく。

「ファーブニル!」

「分かってらぁ!!」

ハルピュイアが飛び込んだ箇所めがけてレヴィアタンが氷塊を打ち込む。火を消す事は難しいが道さえ確保できれば。
その氷塊と崩れた瓦礫を足場にファーブニルが炎の中を突き進んで行く。
ハルピュイアが意識を失い墜落しかけた瞬間、ファーブニルが抱きかかえた。

「あっぶね間に合ったぜ」

ハルピュイアの腕からコピーエックスの頭部が転がり落ちる。


火の気がないところへ戻ると乱暴にハルピュイアを地面へ転がした。

「ったく…このバカ野郎!お前まで死んじまったらどうすんだよ…」

その様子を遠くから眺めていたレヴィアタンも俯いてしまった。槍を持つ手が震える。

「あいつのせいで…ゼロのせいで…」

レヴィアタンは唇を噛み締めた。
悔しい!悔しい!!
全然歯が立たなかった…

やりきれない思いを辺りにぶつける。逆に解凍が困難な程に凍てつかせ、レヴィアタンはその場に膝から崩れ落ちた。
ファーブニルはレヴィアタンの元へ行くと腕を強引に掴み立たせる。

「ファーブニル…」

「俺だって同じ気持ちだ…ゼロ、あいつだけは許さねぇ…。でも今はネオ・アルカディアが先だ」

ファーブニルの腕を振り払うと、レヴィアタンは

「分かってるわよ!!」

と部屋を後にした。




もう消火隊に任せても大丈夫だろう。ハルピュイアを抱え直し、ファーブニルもメンテナンスルームへと向かった。


「ハルピュイア様!?」

連絡を受け、待機していた幹部や技術者達は驚きのあまり静まり返る。
過去戦闘において意識を失う程の重傷を負った事のない賢将が。
紛い物の君主に縋り付き、挙げ句の果てに心中しようなどと誰が信じようか。
そんなハルピュイアを見て複雑な気持ちになる一方、エックスとは人を惹きつけて止まない魔性であると思うのだった。

「ドクターオラージュへ至急連絡を!!」





ハルピュイアは夢を見ている。
キラキラと輝く何もない空間に漂う自分。頭はぼーっとし状況を理解できない。
俺は…何をしていたんだ?まだ、寝るには早いじゃないか。
しかし身体の自由はきかない。

しばらくぼんやりしていたが、向こうから誰か、こちらに向かってくる。
ハルピュイアは目を見開く。

「エックスさま…?!」

最愛の君主が優しく微笑む。だが、その表情はみるみるうちに悲しくなる。

『ハル…やっと会えたね』

「エックス様!エックス様!!」

駆け寄って力いっぱい抱きしめたい。その温もりを感じたい。
だけど、駆動系の故障のように身体はいう事をきかない。

「何故もっと早く、俺のところに来てくれなかったんですか!!あの日以来毎日、あなた様の事を思い続けて…ずっと待ってて…」

涙は出ないが泣き喚いた。
泣いて泣いて、愛おしい君主の名前を何度も叫んで。

そんな姿を見てエックスは益々表情を曇らせる。

『どうして…君ばかり泣くの』

「はっ…?」

『情けないよ…泣きたいのは僕だよ』

「我々にはエックス様が必要…

エックスはぐっと拳を握りしめ言った。

『僕は君達にネオ・アルカディアを、全ての弱き者達を守るよう、あれ程お願いをしたのに…!事もあろうに戦争まがいの事を始めて!』

エックス様が怒っている。
初めての事に戸惑うハルピュイアは勢いが無くなっていった。

「お言葉ですが、このままではレジスタンス共にネオ・アルカディアが…」

『レジスタンスを結成させてしまったのは君達だろう?』

「それはアイツがやった事で…」

まで言いかけてハッとする。


『君には失望したよ。彼にお願いして良かった。これで君達も少し懲りただろう』

エックス様が遠ざかっていく。

「まっ 待って!エックス様!!」


2へ続く


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最終更新日 2015年8月10日
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