envious 2


「エックス様!!!」

叫び声をあげ覚醒したハルピュイアに周囲は飛び退いた。

メンテナンスルーム。
幸い怪我は大した事はなく、処置が終わりそれぞれの機器が安定するまで様子を見ていたところだったのだが。
技術者の一人が声をかける。

「ハルピュイア様、良くぞご無事で」

「エックス様はどこだ?どこへ?」

「何を仰りますか。エックス様はレジスタンスの手にかかり―」

「違う!アイツじゃない!本物のエックス様が今俺に語りかけて…」

無理に起き上がろうとするハルピュイアを数人がかりで押さえる。

「"本物"のエックス様はユグドラシルに封印されております!!落ち着いてください!!」

「夢…?夢なのか?今確かに俺と話を…」


「…」

その様子を遠巻きに見ている男性が一人。
ハルピュイアが意識を失ったと知らされリペアの指揮を取るために来ていたオラージュだった。

ハルピュイアが目覚めたと聞いて駆けつけたファーブニルとレヴィアタンはその光景を見て唖然とする。

「頭のケガは直ってねえんじゃねーか」

「哀れね。いつものキザっぷりの欠片もないわ」


オラージュに気付いた2人は歩み寄ると声をかけた。

「ドクターオラージュ…彼は…」

「ファーブニルとレヴィアタンか。困った事に製造責任者の私にさえ手がつけられないよ」

ご自由に と一言こぼすと腕を組み、ハルピュイアの方へ向き直った。

普段から温厚で決して人前で取り乱さない彼だが明らかに苛立っているのが見て取れる。ネオ・アルカディア第二権力者であるハルピュイアの生みの親としての責任は相当なプレッシャーだろう。


レヴィアタンは頷くと、ハルピュイアの前に立ちはだかる。

「今のあんたに政は任せられない。自室謹慎処分を言い渡す。大いに反省しなさい!!」

「何だと?!お前になんの権限があって…

室内に響く鈍い音。
レヴィアタンはハルピュイアの頬を殴っていた。
オラージュは黙ってその様子を傍観している。

「コピーエックス様だけじゃない…ファントムも 死んだのよ」

踵を返すとレヴィアタンは命令を出す。

「最高権力者及び第三権力者死亡、第二権力者を療養、職務怠慢の処分の為自室謹慎。第四権力者は政への能力不足が懸念される。よって第五権力者の私が当面の指揮をとります。意見は?」

頼り甲斐のある彼女の指揮に満場一致のようだ。みな敬礼をしている。

「ファーブニルは私のサポートをしてよね。良い機会だから戦闘だけじゃなくて政治も覚えて」

「ま、しゃーねーよな」

技術者達に向き直るとレヴィアタンは続ける。

「暴れるようだったら強制的にスリープモードにする事を許可します。戦力の面で不安が残るけど、レジスタンスも目的を果たした事だししばらくは落ち着くでしょう。全て終わったら彼の自室へ」

「はっ、了解いたしました」


先程の勢いはどこへ行ったのか。暴れる事もなく、自室へ連れられて行ったハルピュイア。その静けさに不気味さすらある。

「ではハルピュイア様、ご用があれば何なりとお申し付け下さい。くれぐれも外出などされませぬよう…」

「…」





何もしないまま数日が過ぎた。
夢の中でエックスが放った言葉が未だ重くのしかかる。

『君には失望したよ』

こんな罵りを受けたのは初めてだ。

「ふふっ シツボウした か」

乾いた笑いが漏れる。

「だろうな…俺が逆の立場なら同じ言葉を選んだだろう」

理解はしている。
ただ衝動が抑えられない。エックスの事が愛おし過ぎて何もかも暴走してしまう。言葉も思考も行動も、全てはエックスの為だ。

何故だ?何故自分はエックス様の事になると暴走する?


「愛…か」

この感情が、俺を狂わせるんだ。
これは俺をイレギュラーのように豹変させてしまう。

エックス様に触れたい。優しく頬を撫でて差し上げたい。優しく抱きしめたい。
その欲求の行き場がない。その為に造った偽りの主君は殺された。

「5年もか…早いものだ」

アイツが生まれてから5年。ハルピュイアは一方的に自身のやりきれない想いをぶつけていた。オリジナルエックスに対して見せたような優しさ。それに反する激しい憎悪。
エックス様に外見だけが良く似た何か。
それが居なくなった事で気持ちに余裕が出来たのだろうか、正直ホッとしている自分がいて。

「…アイツはどうなった」

「損壊率85%。作り直した方が早いかもね」

モニターに話しかけるといつも映るはずの給仕のレプリロイドではなく、そこには自身の生みの親であるオラージュが映し出されていた。

「っドクター!?」

「君の暴走のおかげで私の評価も下がる一方だよ、ハルピュイア」

「申し訳…ありません」

冗談だよ と軽く笑むとオラージュは優しい表情に戻った。

「そちらに行こう」


数分後オラージュが自室へやって来た。
目覚めた時は取り乱していてオラージュの存在に気付いてすらいなかった。

「…今回は何と詫びれば。ドクターの顔に泥を塗ってしまい」

「そんな事よりさ、君が暴走した原因のエックス様に会ったって話を詳しく聞かせてくれないか」

ハルピュイアは夢の話をして聞かせた。
サイバーエルフになったエックスが現れ叱責された事。
愚かな行いに失望したと言われた事。
そして
彼にお願いして良かった と言う謎の言葉を残して消えた事を。


3へ続く


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最終更新日 2017年6月10日
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