envious 3


「彼… ゼロか。私の最高傑作をここまで追い詰めるなんて大したものだと、製造者には賞賛を贈りたいね」

ゼロ。エックスとどういった関係なのか。

「ドクター、ゼロとは一体…」

「私も詳しくは知らないんだ。ネオ・アルカディアにはもちろんゼロに関するデータは一切ない。 今分かっているのはレジスタンスが回収した旧世代型の戦闘用レプリロイドという事だけ。 ドクターシエル達がゼロを回収したとされる研究所も封鎖区域内の遺棄されていたエリアだし」

「エックス様の旧知の間柄なのにデータが一切なく、遺棄されたまま回収もしないなんておかしくないでしょうか?」

「そうだね…本人から教えてもらうのが最良だと思うが。今の様子ではサイバーエルフとなったであろうエックス様は君の前には現れてくれないだろうけどね」


「あれはやはり夢ではなく、サイバーエルフとなったエックス様だったのですね。あのボディにエックス様は、存在していなかった…」

「とっくに気付いていると思っていたよ?」

「…」

改めて現実を突きつけられ果てしない虚無感に襲われる。いつも縋っていたエックスはすでにもぬけの殻で。いや、それは薄々感じていた。だが、 そのエックス様は自分達の前に現れる事無く、敵陣のゼロに会いに行っていたという事実が何とも納得がいかず不快感がこみ上げるのである。


「あぁ…そう言えば あの時、エックス様に一度、お叱りを受けていました。コピー体の彼も自分のデータを引き継いで生まれた君達の兄弟なのだから受け入れるようにと」

コピーエックスに決定的に嫌われる原因を作ってしまった、"愛"ゆえにイレギュラーと化したあの日。
あたたかな光に包まれ、薄れ行く意識の中でいつもの優しい声を聞いた。


「反省し、耐えました。元々コピー体の製造命令を出したのは自分です。エックス様が復活される日まで責任を果たさねばと思いました。ですが」

「君が大人しく従うようになって、彼は暴走を始めた。新たな力の解放と共に」

そう言い、一瞬押し黙ったがオラージュは口を開いた。

「…私達はネオ・アルカディアに保護されて働いている立場だから政策に口を出す事は本来出来ないが。ハルピュイア、はっきり言おう。 コピー体を造ったのは完全に君の判断ミスだ。君が犯してしまった過ちだ。これは素直に受け入れなさい。 そして彼がいなくなった今、ネオ・アルカディアをどうしていくのか君の判断にかかっている」

「はい…よく考えます」


「エックス様にね、頼まれていたんだ。もし君が独自の政策で国を変えようとした際には任せてみてくれと。自分は見守ることしか出来ないけれど…と」

「エックス様がそんな事を」

「それだけ君を信頼していたんだと思う。だけど、こう付け加えたよ」

『そして、それが失敗した時には…彼を諌めてやってくれないか』

「とね。私の言う事なら聞くだろうと。どこまでも君の心配をしていたんだよ。君が常に正しい道を歩み、自分の後継者として皆を先導出来るようにとね」


ハルピュイアは自分を恥じた。こんな状況になってまで、エックスが自分の想いに応えてくれない事に腹を立てていた。
そして叱責されてからは反省する事もなく、ただ落ち込んでいた。

いつからこんな奴になってしまったんだろう。

「俺は エックス様がいないと何も出来ません… まともな判断能力すら失ってしまいました。思うのは、エックス様の事ばかりです。自分でももうどうしたら良いのか」

初めて吐いた弱音。本当の自分の気持ち。こんな事ではまたエックスやオラージュを失望させてしまう事だろう。
だが、オラージュは意外にも優しい表情を浮かべた。

「よく、言ってくれたねハルピュイア」

「…?」

「君はプライドが高くて、完璧主義者で、ちょっと潔癖で…自分の弱い部分を決して他人に見せる事なく過ごしてきた。 だけど思い悩んでどうしようもなくなった時に、信頼できる人に弱い部分を見せても良いんだよ」

エックス様は普段君にどうしていたか思い出してごらんと言われ、楽しかった日々を思い返す。エックス様は俺に何でも打ち明けて話してくれた。
地球の再生が思うように進まず悩んでいる事。減らないイレギュラーへの対策。ネオ・アルカディアを維持するために必要な経費・人員・環境…そして

「エックス様…」

初めての経験だった。絶望や怒りによるものではない純粋なもの。
ここまで諭されてようやくエックスの想いをひしひしと感じたのだった。

「ハルピュイア、君はこれからどうしたい?ネオ・アルカディアの権力者としてではなく、君自身の答えをくれ」

「お 俺は エックス様と 再び 共に歩みたい」

「上出来。その調子だよハルピュイア」




部屋を後にするとオラージュは独り言ちた。

「愛ゆえに暴走。相手の事しか見えなくなり堕落…なんて実に人間らしいじゃないか。私の目的は人間を造る事ではないが、 より人間に近づけられた事は今後の共存を考えていくと良い面でもあると思うな…もちろん悪い面もあるが」

だがこのままにしておく訳にはいかない。ネオ・アルカディアの最高権力者が正常な判断能力を本当に失っているとしたら大問題である。

「体にも頭脳にも異常は無い。後は本人次第…第五権力者様のところへ向かうか」


4へ続く


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最終更新日 2017年7月16日
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