envious 5
目覚めたハルピュイア。見慣れた自室。
「ついに幻覚まで見るようになったのか…」
ハルピュイアは膝を抱え込みそのまま顔を埋めた。
側にはオラージュ…ともう1人、人間の男性が居る。
「…」
ハルピュイアは顔をうつ伏せたたまま言葉を発しない。
いや、発せないと言った方が正しいか。
もう1人の男性。それは
「君を心配してわざわざ足を運んでくれたんだよ」
「…」
そう言われた男性は黙ってハルピュイアを見つめている。
ハルピュイアは恐る恐る顔を上げる。
「ドクター…フォンセ」
「やぁ…ハルピュイア。久しぶり」
フォンセはファントムの製造責任者である。
任務を忠実に遂行するためにゼロを足止めしようとしてファントムが自爆してからというもの自室に引きこもりがちになっていた。
フォンセに向き直るとハルピュイアは頭を下げた。
「申し訳ございません。あんな結果になったのは俺にも責任があります。ゼロをもっと早く処分できなかった我々に…」
「いや…そういうのはいいんだ 彼はもう居ないのだから」
突き刺さる重い言葉にハルピュイアはただ頭を下げ続けるしかなかった。
ファントムは、フォンセの憧れの要素を詰め込んだ理想のヒーロー像を具現化したものだ。 フォンセはファントムをとても大事にし、ファントムもそれに応えた。他の製造責任者と四天王達の関係と違い、より親密だった。
「まさか自爆までするなんて 思わないじゃないか」
フォンセは静かに涙を零す。
「ファントムの忠告を君は受け入れなかった。全てファントムが正しかったとは言わない。 だけど、彼は純粋に君やネオ・アルカディアの事を心配していたんだよ」
「それは…分かっています。四天王の中で最も冷静に物事を判断していたのはファントムでした」
「だったら何故?!」
突然声を荒げたフォンセに驚きを隠せない。
人一倍温厚な彼が人前で怒鳴る姿を初めて見た。その表情からは悔しさが滲み出ている。
「何度話しても聞く耳を持たない君にファントムも正直困っていたよ。だけどファントムは君を信じたんた。 いつか分かってくれると。でもこんな結果になって…僕は…」
拳を握りしめ震える体を必死に抑え嗚咽するフォンセにハルピュイアはこれ以上どうしていいか分からず混乱していた。
「フォンセ…すまなかった。 …ハルピュイア、君は今守るべき対象の人間を傷つけている。傷つけるというのは物理的にだけじゃない。精神的に追い詰めるのも"傷つける行為"だ」
「俺が…人間を 傷つけた…?」
「そうだ。回り回って君が招いた事だ」
「そ んな 俺が」
エックス様を補佐し、ネオ・アルカディアを先導して人間を守っていく為に生まれた自分が、人間を傷つけていたなんて。
「悲しいのは、悔しいのは…君だけじゃないんだ」
「造り直せばいいとか 簡単に言う人もいるけど…そういう問題じゃない。君も今回の事でそれを学んだと思う。僕は君に説教をしに来たんじゃない。 謝って欲しくて来たんじゃない。ただ、今回の事を糧にして乗り越えて、きちんと復帰してくれないかと思って…ファントムの分まで。彼ならきっと、そう言うだろうから…」
そう言うとフォンセは失礼するよと部屋を後にした。
自分の私欲のために招いた悲劇の連鎖が止まらない。
改めて自分がした事の愚かさに気付かされる。
この一件で謹慎処分は延長が決定し、自業自得とはいえハルピュイアをさらに追い詰めていった。
6へ続く
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最終更新日 2017年7月17日
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