I believe 前編


エリアA

大きな湖の側へ来たエールはその場に腰を下ろした。思わず大きなため息が漏れる。

「プレリーにはああ言ったけど…なんか複雑」

告げられたガーディアンと自分達の関係。

目が熱くなる。
悲しいような悔しいような負の感情が渦巻く。

思い出したくもない10年前の出来事。
目の前で母は死んだ。
まだ4歳の自分達にはどうする事もできず、抱き合って怯えていた。
そこに現れた紅きレプリロイド、ロックマンモデルZは自分達にとって「命の恩人」というだけでなく「憧れのヒーロー」となった。 普段の、戦っている時とは真逆の優しい人柄にも惹かれた。

そんな彼が組織の指示で自分達を助けたという事がどうしても受け入れられなかった。

適合者と分かった時から自分達を影で監視し、イレギュラーに襲撃された時に何食わぬ顔で助け、保護と称して管理下に置く…

「私が適合者じゃなかったら あの時、助けてもらうどころか 出会う事すらなかったのかも」

頬を涙が伝う。

「ヤダな…こんな事考えるのもイヤなのに、頭ぐるぐるする」

どんなに辛くても側にジルウェが居る。
それだけで頑張ってこれたのに。

心の片隅に、裏切られたという気持ちが住み着いている。


そんなエールを背後で見つめる少年。
双子の弟ヴァンだった。
心配でこっそり追いかけて来たのだが、あんなにショックを受けて塞ぎ込む姿は、母が死んだ時以来だろう。 一歩出ようとすると自分の心に声が響いた。

『そっとしておいてあげなさい』

「モデルL…」

決戦に備えリペア中のライブメタル達の中、アンタだけじゃ危なっかしくて心配だと、ついて来てくれたのだった。もちろんモデルXもいる。

『彼女の中で模索しているの。これからガーディアンとどう向き合っていくのか。これは彼女自身で答えを見つけないと』

「言いたい事は分かるよ。俺だって複雑な気持ちだし。姉ちゃんは先輩の事好きだった分、もっと傷付いてる」

『だったら今は余計な事を言わずに見守るだけにしておかなくちゃ…

突然黙るモデルL。何かを感じ取ったようだ。

「モデルL?急にどうし…」

『左前方、敵意を感じる!』

「メカニロイド!?ここでは襲ってこないんじゃ」

『回路に異常をきたしているのかもしれない!ヴァン、ロックオンよ!』

「解ってる!!モデルX!!」


エールに迫る一体のメカニロイド。
ヴァンはロックオンすると駆け寄り、暴走したメカニロイドを一撃で破壊した。

「ヴァン?!どうしてここへ」

「バカ!!何ボーっとしてんだよ!!危ないだろ!!」

「…ごめん」

エールは力無くまた俯いてしまった。身体が微かに震えている。

「あの時もこんな風に守ってくれたんだよね、ジルウェ。ヴァンも同じように人を守れるようになったんだね。嬉しいよ」

「あ…いや 怒鳴ってごめん」

「ちょっと思い出して怖くなっちゃった。でも抱きしめてくれた彼はもういないし、何なら出会わずに」

ヴァンはエールの言葉を遮るとぎゅっと抱きしめた。

「えっ」

「いいから」


「先輩の存在を、一番否定しちゃいけないのは俺達だろ」

「!!」

(モデルL、俺やっぱ黙ってられないよ)


少し照れくさそうに離れると話を続けた。

「実はさ…姉ちゃんが出かけてからプレリーと話したんだ。プレリーはさ、先輩の事好きって言うより憧れてたみたいなんだ。昔いた伝説の英雄に似てるんだって」

「伝説の…英雄?」

プレリーによれば自身がもっと幼かった頃、自分達を命懸けで助けてくれた伝説の赤き英雄がいたという。
紅のアーマーに身を包み、金色の長い髪をなびかせ、あっという間に敵を粉砕していく。少々無愛想ではあったが優しく、いつも先代司令官の姉をサポートしていたそうだ。

「その姿を先輩に重ねてただけらしーから…だから好きとかそんなんじゃなくて」

「そっか そうじゃないとアンタも困るしね」

「おっ 俺の事はいいんだよ!!」


「…姉ちゃんを見つめる先輩の眼差しに偽りはなかったと思う。先輩が姉ちゃんの事好きだって事みんな分かってたし」

だからみんなで応援してたんだぜ と小声でつぶやくヴァン。

「ありがとうヴァン もう平気だから」

「ウソつけ!だったら…」


「だったら泣き顔なんて…見せんなよ」


後半に続く


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最終更新日 2023年2月10日
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