Beautiful Dawn 後編


「姉さん…!?」

「今 "ジルウェのバカ"って声が…」

エールが居ないことに気付いたヴァンとプレリーはベース内を探し回っていた。そっと甲板へ出ると、そこには妙な光景が広がっていた。

何もない場所にエールが怒号を浴びせている。
プレリーは声を上げそうになるのを必死でこらえている。ヴァンは急ぎバイザーをかけるとそこには憧れの先輩 ジルウェのサイバーエルフが佇んでいた。

(プレリー!)(ヴァン!)

お互い驚きのあまり大声が出そうになったがなんとか堪え、2人を見守る。


『エールごめん。上手く説明出来ないんだけどこの世界とあっちの世界って複雑でさ…こうやって出てくる事って本当は無理で…側にいれなくて』

「そんな事怒ってるんじゃないの!」


「遠慮して、出て来なかった事にムカついてるの!!私がどれだけあなたに会いたかったか分かる!?」

エールは興奮して逆ギレしてるようだ。



だって4年間も音沙汰なかったら…

「完全に…消滅しちゃってたらどうしようって… ずっと心配してたの…っ」

『エール…ありがとう』

エールの側に寄ると肩に触れる。もちろん触れ合うことは出来ない。だが、優しいぬくもりだけは伝わってくる。


ジルウェはエールを落ち着かせると一つ咳払いをし、真面目な顔をした。

『2人を見届けたくて来たのは本当だけど…。エール、君ともきちんと話をしようと思って今日は来たんだ』



『その…ちゃんとした相手を見つけて欲しいんだ』

「えっ…」

『エールの気持ちはすごく嬉しい。自分のエールに対する気持ちも本当だ。だけど…いつまでもこのままじゃ君は』


「何言って…」

『自分はもう、エールと同じ世界にいる事は許されない。いずれ消滅してしまうかもしれない。でも君には未来がある。これからまだ成長して色んな人達と出会うだろう。エールの事を特別に思ってくれる人が現れるかもしれない。その時は…』


「そんな事言う為にわざわざ来たの…?」


一瞬言葉を詰まらせたジルウェ。それでもと話を続ける。


『君の事を忘れられずに、君を拘束してしまってるのは俺なんだ。こうして時が経っても君に会いたくて来てしまった…。これじゃ君は忘れたくても忘れられないんじゃないかって』


「自惚れないで!」

エールがピシャリと話を遮る。


「なに…カッコつけちゃってんのよ。そんなに想ってくれてるなら、他の男がでてきたら呪ってやるぐらい言ったらどうなの?!サイバーエルフになったあなたと過ごしていく、それの何が悪いの?ジルウェが望むならこのままでいいじゃない!私が望むならこうして」

「許される限り同じ時を過ごしていけばいいじゃない…!!」


彼は実体のないエルフとなってしまったが、それでも対等に付き合おうとエールは思っていた。
周囲は哀れんだ目で自分を見るかもしれない。いや、きっとそう見るだろう。

でも悲しい事なんて一つもない。
姿が変わってしまっただけで、彼はそこに存在している。こうやって言葉を交わす事も出来る。

普通の恋人達との差はあれど、共に道を歩んで行く事はできる。



『ジルウェ、エールの想いは本当だよ。どんな姿だろうが関係ない。大事なのは心。エールは君からの大切な言葉を待っているはずだよ』

そう言うとモデルXはエールのポケットに戻っていった。


『モデルX…ありがとう』


今の言葉で彼も覚悟を決めたようだ。
エールをつなぎとめてしまっている自分という存在が彼女にとって良くないとそればかり考えていた。側に居る事が出来ても守ってあげられる訳でもない、触れ合うことすら出来ない。それでは彼女がもっと辛い想いをするのでは…と。


それでも彼女が望むなら…応えてあげなくては


『エール、4年前言えなかった事、全て伝えようと思う』


『君の事が好きだ、愛している…俺と一緒になってくれないか』

「ジルウェ…」


『昔のように君を守ってあげられない頼りない奴だけど、お願いします』

エールはジルウェのふところに飛び込んだ。



ずっとずっと待っていた言葉。

「初めからそう言ってよ…ホントにバカなんだから」

泣きながら、照れながら
エールは小さな声で言った。

これからはずっと側にいてね
約束だからね

そして

ありがとう、ジルウェ

『泣かないで エール』

「泣かせてんのはあなたでしょ」


後ろで見守っていたヴァンとプレリーはたまらず涙を流していた。

「やっぱり 先輩はカッコイイな。俺が先輩の立場だったらあんなふうに振る舞えないと思うよ」

「エールもジルウェさんも良かった…奇跡ってあるのね」

「2人の愛のチカラが奇跡を呼び寄せたんだよ、きっと」

「ヴァンがそういう事言うと…なんかカッコ悪いよね」

「プレリ〜!」



その後エールは堂々とベースのみんなにジルウェを紹介した。
レプリロイドにはサイバーエルフが見える為その点では問題はなかったが、あのジルウェがエールと恋仲だった事に驚きを隠せないメンバーの方が多く、エールにフルボッコされたのは言うまでもない。

『今どんな状況?モデルZは?』

「それがね…後で詳しく話すけど色々あって。モデルXとモデルA以外のライブメタルは敵側に…モデルZも私達を逃がす為に…ね。だから今捜索中なのよ」

ガーディアンに復帰したジルウェを迎え、今日も世界を飛び回る。



早朝。甲板でモデルXと風を感じながら、気持ちを引き締める。

「キレイね。今日の夜明けは一段とキレイ」

太陽のオレンジ色の輝きが紫の雲からこぼれ、自分たちを優しく照らしていく。

エールの顔は幸せと希望に満ち溢れていた。

『良かったねエール。僕も嬉しいよ』

「ありがと、モデルX。あなたがジルウェを励ましてくれたおかげよ。早くモデルXの大切な彼…モデルHを助けてあげなきゃね」





「ん?そう言えば…モデルXもモデルHも男性じゃなかったっけ……?」


終わり


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最終更新日 2015年2月25日
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