Qualia 1


良く晴れた日。
摩天楼の一角から街を見下ろす一人の青年。名をヘリオスと言う。
彼は毎日のように街を、いや この世界を見つめては溜息ばかりついていた。どうしてこの世はこんなにも愚かなモノばかりが集まり汚れていくのだろう…
このままではこの世界はいずれ駄目になってしまう。

かつてこの街を治めていた賢将は主君に忠誠を誓い立派に事を成し遂げ、ヒトビトの発展に力を注いだのだという。 ヘリオスの憧れの人だった。風を操り悪を成敗し、時には傷付きながらも尽力した賢将のようになりたいとヘリオスは思う。

その賢将が治めていたこの街を汚す愚か者が何よりも憎かった。
しかし

「賢将ハルピュイア様…自分は貴方様のようになってこの世界を美しいものに変えたい。 貴方様のような力が欲しい…しかし今自分にはそんな力など無いに等しく…どうしたら私はこのまどろみから抜け出す事が出来るのでしょう?」

いつかは自分がイレギュラーを倒しこの世界を守るのだと。
だが現実はそう甘くない。一個人が動いたところでどうにかなる事ではなく。毎日絵空事を繰り返すだけで行動に移せないでいた。


それも叶わぬ夢と擦れてきた今日この頃。剣の腕は中々のものになったがハンターになる気にはなれず。極度の潔癖性も手伝い、ハンターという仕事には偏見を持っていた。
早くこの環境を打開したい…ヘリオスは焦っていた。そんな時、イレギュラーが発生したとの通報が流れ街に避難勧告が出される。 この街は他の都市よりもデータ管理塔やコントロールセンターと言った建物が多く存在していて厳重な監視が施されているが、暴走しゲートを突破してしまったらしい。 ヘリオスはいち早く反応し現場へと走る。走って走ってたどり着いたその場所には街を破壊するメカニロイドが3体。 まだ警備隊は到着していないようである。必死に逃げ惑うヒトビトの中一人立ち尽くしそれを見定める。

彼はイレギュラーを見たのがこれが二度目だった。その物々しさに思わず一歩後ずさりする。 倒すとは口だけ…実際は憧れだけで行動に移せなかったのがこのイレギュラー討伐だった。だから実戦もこれが初めてになる。

身構えた彼は一体をおびき寄せる作戦に出た。3対1では自分が圧倒的に不利になってしまう。

「来い!私が相手しよう」

気付いた一体がこちらに向かってきた。精神を集中し再度身構えるヘリオス。 最初は避ける事が精一杯だった彼も覚えがいいのか攻撃をかわし何とか一撃を加えてみせた。

(これなら…いける!)

調子づいたヘリオスはもう一撃を加え残り2体を睨み付ける。

「そこの青年!危険だから下がりなさい!!」

警備隊が到着した。ヘリオスは一瞬気が緩んだ。その瞬間、倒したと思っていた一体が起き上がり攻撃を加えてきた。 後ろに飛び退いたが服の裾を引き裂かれその勢いでしりもちをつく。 駄目かと思ったその時、警備隊員が銃を撃ち込み完全に破壊した。

ヘリオスは呆然とその場に座り込んでしまった。

「危険だと言っただろう!退きなさい!」

隊員に腕を引かれ後ろに追いやられたヘリオスは、そのまま討伐の様子をただただ見ていた…



夕刻。
すっかり気の抜けたヘリオスはとぼとぼと路地裏を彷徨う。服はボロボロになり、汚れ、普段の彼なら発狂ものだがそんな事すら気にならぬ程打ちのめされていた。

「あいつが大声を上げるからだ」

口から漏れるのは不満。自分のミスであっても素直に認めない彼の悪い癖だ。 一際大きなビルの間を抜けたところで一人の青年の視線に気付く。 見た目は自分と差ほど変わらないが随分と厳つい格好だ。

「イレギュラー討伐ご苦労だったな?」

小馬鹿にしたような笑いをし、こちらを睨む。

「誰だ貴様は。私の知り合いに下品な笑い声の持ち主はいないが」

「言葉だけは一丁前だな。相変わらず適合者にはロクな奴がいない」

「初対面の相手に対しての愚行…なんて口の聞き方が悪い男か。何用だ?」

自分の剣に手をかけ身構えるヘリオス。イレギュラーには見えないが相手は明らかに自分に対して敵意を持っている。殺伐としたオーラが漂ってくるこの男。一体何者なのか。

「そう粋がるな。俺はオマエに用があってきてるんだ。剣を構えられては話も出来んだろう?」

「貴様が普通のヒトだとは思えない。どうしてそんなに神経を尖らせている…」

「いい加減本題に入りたいが…ここではな、ついて来てもらおうか」

「貴様の目的がわからぬ以上その願いは聞き入れない」

その男は構えるとこちらを睨んだ。

「話し合いも出来ないのか…オマエ意外とおバカちゃんなんだな? まぁこのゲームに参加するかしないはオマエの自由だ。力を手にしたくなければの話しだがな」

「チカラ…?」

「そうだ、オマエには力を得る権利がある…ロックマンとしての力、いや、世界を支配する力をな!」

その男は大鎌を出現させるとこちらを見て笑い出した。

「ッハハハハハ!!一応は伝えてやったが俺個人としてはオマエのようなスカした野郎は大嫌いなんだよ! オマエにその気がないのなら切り刻んでから帰るまでだ!!」

「なっ…」

男は容赦なくヘリオスに襲い掛かる。直撃はかわしたがその風圧で吹き飛ばされビルの壁に叩きつけられ崩れ落ちる。受けたことのない衝撃に視界が歪む。

「なんだぁ?ずいぶんと弱いんだなぁ〜その剣は玩具か?」

「くっ くそッ」

体がいう事をきかない。歩み寄るその男は胸倉を掴み苦しむヘリオスの表情を見て微笑んでいる。

「どうだ悔しいか?力が欲しいか?それを拒んだのはオマエだからな!!死ね…

「プロメテ…その辺にしてあげたら?」

後ろから不意に姿を現したのは似たような出で立ちの少女だった。 開放されたヘリオスはその場に座り込む。余りの衝撃で体が硬直したままだった。



何がイレギュラー討伐だ。
何がこの街を守るだ。
何がこの世界を変えるだ…


「うぁぁぁぁああ!!!」

何もかも不完全な自分。何も出来ない自分。こんな奴にあしらわれいとも簡単に殺されるところだった。
自分の人生が終わるところだった。


「…しい」

「?」


「チカラが…欲しい!!」

ニヤリと笑う男。

「そうこなくっちゃなぁ!パンドラ、モデルLの適合者はどうした?」

「素直に応じたわ…もう研究所で待ってる」

「よし… おい、力が欲しいなら俺達についてこい。詳しい話はそれからだ」


2へ続く


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最終更新日 2015年3月18日
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