Qualia 3


海の側の小さなラボで生まれたテティスは、自然が大好きな優しい心を持ったレプリロイドだ。 泳ぐ事が好きでいつも海に潜っては海底の調査をしたり生き物と触れ合ったりと楽しい生活を送っていた。
しかし生まれて数年。海の異変に気づいたテティスはドクターにその事を報告した。ドクターには「もうこの辺の海に入ってはいけないよ」と教えられた。
原因は工場からの廃棄物による汚染であった。相談をしたがドクターは首を横に振るばかり。

「どうして?このままじゃ海の生き物たちが死んじゃうよ!」

違法業者による廃棄物の不法投棄に加え、垂れ流しになっている有毒な化学物質。一つ二つ見つけて通報したところで無くなりはしない。テティスは海に飛び込むとその廃棄物を片付け始めた。

「テティス!無意味な事はやめなさい!」

ドクターに注意されようがテティスは懸命にゴミを片付ける。毎日それを繰り返した。しかし廃棄物が減ることは無い。
それはそうだ。テティスが数個のゴミを持って海底と岸を一往復している間に大型車両で大量のゴミを投棄していくのだから…。
それならばとドクターに頼み込んで中和剤を製造して貰ったが量が足りず追いつかなくなってしまった。

「テティス…私のラボは見ての通り小さい。見過ごせないのはわかっているがボランティア出来るほどの資金もない…中和剤を作るのにもお金がかかるんだよ。だからわかってくれ…」

彼は自分の無力さに愕然とした。
次々と増えるゴミ。弱る生物。どうしようもなくそれを見つめる自分。

いつしかテティスは海に潜る事をしなくなった。目の前で弱った生物が死んでいくのを見せ付けられた。
澄んだ海の水も、いつしかどす黒く変色していった。



「みんな…自分さえ良ければいいんだ。海の小さな生物の事なんて考えた事もないんだろうね。そんなヒトビトの事をボクはもう許せない」

テティスの体が小刻みに震える。

「だから、ボクは決めた。バカなヤツにはボクが制裁を下す」


驚いた。この少年、まるで自分のようだ。
世界を汚す愚か者達に制裁を…
さっきまで同じような事を考え行動を起こしたのは自分も同じだったはず。 それがなんだ。今から望んでいた”力”が手に入ると言うのに。

忘れたのか、自分の目的を?


「テティス…」

「ヘリオスもボクの事、壊れてるって思うかい?みんなはボクの事欠陥品だなんて言うんだ。 正しい事言ってるだけなのにね、みんなに従わないとはじかれるんだ。みんなと同じ考えが出来ないのがイレギュラーになるんだって」

俯くとテティスは黙り込んだ。
こんな繊細な少年の心を傷つけた周囲のヒトビト。世界規模で問題視されている自然界の汚染。所詮ヒトビトは自分たちに直接の被害が出ない限り何でもありだと思っている。

この世界はもはや手遅れなのだとヘリオスは改めて実感した。

「愚かなる世界…どこに行ってもそんな奴らばかりだからこの世界が汚染されていく。 テティス、お前は正しい。間違っているのは愚民共だ。だから顔を上げろ」

耐えられなくなった少年はわっとヘリオスに泣きついた。

「良かった…ボク、自分の存在を否定されているようで怖かったんだ」

それは自分も同じだ。
この世界はみな同じでなければならないと言う固定観念のおかげで成長が止まったまま…むしろ退化の一途を辿っている。

世界を救うんだ


「お前のようなヒトがまだいる事に驚いた。共に立ち上がろう。男子たるものいつまでも泣くんじゃない。私はお前の言葉で救われた」

「…ぇ?」

「なんでもない!…ホラ、顔を拭け」

そっとハンカチを差し出すヘリオス。他人にこんな事をしたのは何年振りだろうか。

「ありがとう、ヘリオス」





数分後、パンドラが部屋に入ってきた。

「準備が出来たわ…こっちに来て」


「待たせたな。今からお前達が本当の適合者であるかどうかテストする。コレを使ってな」

手渡されたのは変わった形の金属塊。

「これは…?」

「これがライブメタルだ。世間では”ヒトのタマシイを喰らう呪われた石”などと言われているがそんなもの笑い話だ。 その正体はロストデータを記録した貴重な遺産…お前に渡したのはモデルH。テティスに渡したのはモデルLだ」

「このライブメタルがボク達にどう関わってくるの?」

「お前達は全世界のヒトビトの中から選ばれたライブメタルの適合者だ。そのライブメタルを操る事が出来る。ロック・オンするんだ」

「ロック…オン?」

「適合者である者だけが出来るライブメタルの力を引き出す能力…細かい話はそのうちしてやる。2人共、ライブメタルに意識を集中させろ」

「半端な気持ちじゃ拒絶される…力を引き出す事が出来なければ何も始まらない」

パンドラがくすりと笑うとプロメテの後ろに下がった。
プロメテも数歩下がって間合いを取る。


手渡されたライブメタルを見つめる2人…意識を集中させろと言っても何をどうしたらいいかわからない。 半信半疑なヘリオスはテティスを見た。テティスはこちらを向くとにっこり微笑む。

「ボクはやるよ。この力を使ってどうしようもないヒトビトをこらしめるんだ!!」

テティスから青白い光が放たれる。先ほどのあどけなさはどこへ行ったのか、その凄まじい気迫に圧倒されそうだ。

「そうだテティス!もっとライブメタルに意識を集中させろ!!そして叫べ、ロックオンとな!!」


「ロック… オン!!」

叫んだと同時に氷がテティスを包み氷塊と化す。パァンと砕け散った氷の中から現れたのは青いボディーに身を包んだ一人の戦士。
プロメテはニヤリと笑う。

「テティス、それがロックマンだ。ロックマンモデルLだ!どうだ、力がみなぎってくるだろう?」

「…うん。よくわかんないけど、とても気分がいいよ。今なら何でも出来そうな気がする。ヘリオスもやってごらんよ」


すぅと息を吸い込みゆっくりと吐き出す。意識を集中させるんだ。自分にだって出来る。
ロックマンになってこの世界を変えると決めたんだ。

もう後戻りは出来ない。




ヘリオスの周囲に風が沸き立つ。愛刀を構えゆっくりと足を開く。

「ロックオン…!」

巨大な風の柱に包まれるヘリオス。
自分の体はライブメタルによって再構築され見たことも無い姿に変わっていく…その一瞬、ヘリオスは確かに何者かの気配を感じた。

(賢将ハルピュイア様…?)

風がやむと、テティスとはまた違った姿のロックマンとなっていたヘリオス。確かに今まで感じたことの無い力が満ち溢れてくる。

手を叩きながらプロメテが2人に歩み寄る。

「クックックッ…上出来だ。じゃあ次のステップに進もうか……パンドラ!」

次の瞬間、パンドラによって一撃を加えられた2人はその場に倒れこんだ。


4へ続く


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最終更新日 2017年2月13日
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