物の始め 1

【登場人物】



松寿丸 毛利家の次男。屋敷を仕切っている井上らの企みで荒屋に住んでおり、ひどい扱いを受けている。 父も兄も信用できず、心の支えは面倒を見てくれている義母と義母が信仰している日輪のみ。歳に似合わず端正で麗しい。


弥三郎 長曾我部家の次男。部屋に籠もって本を読んだりと男児らしからぬ行動とその見た目から姫若子と呼ばれている。 本人は誂われるのが嫌で余計に引き籠り、悪循環に。海が好きでいつかこの屋敷から抜け出して自由に生きたいと考えている。




(我を四国に連れて行くなど何が目的なんだ…)

甲板で一人海を眺める少年。名を松寿丸と言う。
今日は土佐を治める長曾我部家に出向くことになったのだが、

(大人たちが情勢を話し合うのに、我は必要ないはず それに我は関わりなき事)

「松寿丸様、そろそろ到着致します故」

「…」

小さく頷くと呼ばれた方へ歩いていった。


松寿丸は普段養母と荒屋に住んでいる。毛利家の直系男子であるにも関わらずだ。父が亡くなったばかりで嫡男である兄が家督を継いだのだが兄は京にいる。
当主である兄の代理とでも言うのだろうか…


船内に入ると男が声をかけてくる。

「松寿丸、毛利家の人間として失礼のないようにな」

にやりと気味の悪い笑みを浮かべるこの男。
松寿丸が最も嫌悪する男、井上元盛。

父と母と住んでいた城を横領し、松寿丸を追い出した張本人。
そして

「…」

「返事も出来ないのか。相変わらずな餓鬼だ」

髪の毛に触れられ松寿丸は硬直した。本当はその手を切り落としたいところだがそれが出来ればそもそもこの様な事になっていないだろう。

大人に抵抗するには松寿丸は幼過ぎた…


ぞわりと嫌悪感が背筋に走る。抵抗すればもっと酷い目にあうと分かっているから耐えるしかないのだ。

「今日は他国へ行くのだからとそれなりの身支度をさせたが、やはりお前は齢に似合わず美しい」

「っ…」

「このまま俺の玩具として飼っておいてやろうか、ははは」


(母様…っ)

養母が松寿丸にと縫ってくれた御守を服の上から握りしめ必死に耐える。


「元盛様、到着致しました。ご準備を」




不快感が拭えぬまま長曾我部家へと赴き、当主へと挨拶を済ませると松寿丸は一人別室に通された。話が済むまでここで待っていろという事か。

他人の城とは言え久しぶりのこの感覚に僅かに解放感を覚える。見張りの兵もいないようだ。 襖を少し開け様子をうかがうと向こうに誰か…同い年くらいの男児が見える。白い髪に陽の光が当たり、きらきらと輝いている。

部屋を抜け出した事が明るみになればあいつに何をされるか…と一瞬考えたが、どうしても白髪の少年と話がしたくなった。

そっと近づくと少年は本に夢中なのかこちらに気が付かない。


「ねぇ…何読んでるの」

白髪の少年はゆっくりと顔を上げると驚きもせず、透き通った蒼い眼をこちらに向け松寿丸を見つめた。

「兵法書だよ。君は?」

「我は…松寿丸」

「そっか、俺は弥三郎。もしかして安芸から来た毛利家の?」

こくりと頷く。

「入ってきなよ」

にこりと笑む弥三郎の笑顔を見て安心した松寿丸は座敷に入ると向かいに座った。




「我も読んだよ。この本も、これも」

「松寿は本が好きなんだね」

「そなたもな」

すっかり意気投合した2人はくすくすと笑った。国主の息子という立場上、同い年の子とこうして遊ぶ機会など無く、初めての事に2人はどんどん夢中になっていった。

「こう攻めてきたら弥三郎はどう出る?」

顔を見上げられ思わずドキッとする。

「えっ あっ ああ えっと…」

「どうした?」

「ご ごめん こういうの久しぶりだから。なんだか嬉しくて」


綺麗な顔立ちな弥三郎。自分より少し上ぐらいか。

「本当にお姫様みたい」

「えっ…」

「姫若子って弥三郎の事であろう?」

「や…やめて。それ言われるの嫌だし恥ずかしいんだ…それに俺より松寿の方がずっと綺麗だよ」

「…」

沈黙。お互い顔が真っ赤だ。


暫くして女中が菓子を持ってきた。

「あら、毛利家の可愛いお客様。お部屋に居ないと思えばこちらにおいででしたか」

「2人でいた方が楽しいでしょ。俺が部屋から連れてきたんだよ」

咄嗟に嘘を言う弥三郎。些細なことながら自分を思っての行動に松寿丸は嬉しさを覚えた。


お茶と立派な菓子を出されると松寿丸はあの頃を思い出し黙ってしまった。

「松寿どうした?この菓子嫌いだった?」

無言で首を振る。

「じゃあ遠慮しないで食べなよ。毒なんて入っていないよ?」

一口噛じると、優しい甘さが口内に広がり元就は泣きそうになっていた。今は毎日生きていくのに必死で、こんな高級な菓子など口には出来ない。 どうしてこんな事になってしまったのか。弥三郎のように穏やかに暮らせないものか。
考えても答えなんて出ない。まだ幼い松寿丸には糸口が見えない…

始めは誂おうとした弥三郎も松寿丸の表情を見て何かを察したのであろう。

「松寿、俺の分も食べなよ。ゆっくり食べていいんだよ。お茶もあるよ」

「…うん」


「そっ そうだ!食べ終わったら外に出よう。抜け道があるから、俺のお気に入りの場所に特別に連れて行ってあげる」


2へ続く


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最終更新日 2019年8月22日
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